唾液の仕組み 唾液は口腔内にある「唾液腺」から分泌されており、成人の分泌量は1日あたり1.0~1. 5リットルほどです。また、病気やストレス、薬による影響など、さまざまな理由で唾液の分泌量は変化します。また、夜眠っている間は日中に比べて分泌量が抑えられるため、口内の細菌が繁殖するなど唾液のはたらきが低下します。
唾液の成分 ムチン…食べ物を嚥下しやすくする アミラーゼ…でんぷんを分解する ペルオキシターゼ…殺菌作用・発癌物質の減弱 リゾチーム…殺菌作用 ガスチン…味覚の働きを敏感にする(亜鉛と結合して作用する) スタテチン…歯質を強化(カルシュウムと結合して作用する) ラクトフェリン…細菌の発育抑制(鉄と結合して作用する) アルブミン…口の中を滑らかにして乾燥を防ぐ 分泌性IgA…免疫抗体 上皮成長因子EGF…皮膚・歯・口腔粘膜、胃腸粘膜の増殖促進 神経成長因子NGF…神経の成長促進
唾液のはたらき 粘膜保護・潤滑作用 ムチンという物質が食べ物を包み込んで喉や食道などが傷つくのを防ぎます。粘膜を潤し損傷を防ぎます。 洗浄作用 唾液はお食事をしていない時にも分泌され、歯や舌の表面についた食べ物のカスや細菌などを洗い流します。とくに食事中の咀嚼行為によって活発に行われるはたらきです。 水分平衡作用 呼吸や会話で、口内は常に乾燥の危機にさらされます。乾燥すると細菌が繁殖しやすくなったり、感染や刺激を受けやすくなったりするため、ある程度の潤いが必要です。唾液の分泌は口内の水分量を調節する役割もあり、これを水分平衡と呼びます。 pH緩衝作用 唾液に含まれる炭酸・重炭酸・リン酸などの成分は、口内のpHバランスが酸性・アルカリ性のどちらかに傾かないよう、調節してくれます。食べ物がお口に入るとお口の中は酸性に傾き、その酸が歯の表面を溶かして虫歯の原因になります。唾液は酸を中和して虫歯の予防をしています。 抗菌作用 リゾチーム、ペルオキシダーゼ、免疫グロブリン、ラクトフェリンなどの抗菌物質が外部からの病原菌の侵入を抑え、お口の中の雑菌の繁殖を防ぎます。 消化作用 アミラーゼという消化酵素がご飯やパンなどのデンプンを麦芽糖へ分解し、腸で吸収しやすいかたちにします。 粘膜修復作用 上皮成長因子と神経成長因子が含まれる唾液は、組織修復による傷の治癒を促してくれます。「ケガをしたときにツバをつけておけば治る」という考えは、この組織修復のはたらきによるものです。 再石灰化作用 カルシウムイオン、リン酸イオン、フッ素イオンを含む唾液は、食事によって一時的な脱灰状態となった歯のエナメル質の再石灰化を促してくれます。正常な再石灰化が起こることで、脱灰状態の進行を防ぎ、虫歯リスクを軽減しています。 食塊形成作用 噛んで細かくなった食べ物を飲み込みやすくまとめます。唾液が少ないと飲み込みにくくむせなどを起こしやすくなります。
味覚を認識する作用 味は舌の上に置くだけではわからず、唾液の中に溶け出すことで認識されます。
発音しやすくする作用 唾液によってお口が適度に潤っているとお口が滑らかに動き、発音するのが楽になります。
上記のようなはたらきをはじめ、唾液中に含まれる成分が、口内や全身の健康をサポートしています。
唾液が減るとどんな影響がある? ストレスなど、さまざまな理由で唾液の分泌量は減少します。そして十分な唾液の分泌がなければ、口内が乾燥するため、細菌が繁殖しやすくなります。 細菌が繁殖すれば口臭や虫歯リスクが高まる他、体内にも侵入しやすくなり、風邪など全身の病気につながりかねません。 ⦁ 口腔運動の低下(麻痺や合わない入れ歯・義歯の使用など) ⦁ 刺激の減少(食べ物のにおいを嗅いだりする機会がない) ⦁ 脱水(発汗や嘔吐・下痢による体内の水分量低下) ⦁ 薬剤による副作用 ⦁ 日常生活の癖(口を開きっぱなしにする) ⦁ 口内組織への強い刺激(刺激の強い歯磨き粉などの使用)
上記のような原因で唾液の分泌は年齢問わず減少します。適切な口腔ケアはもちろん、唾液を分泌させるための必要な刺激や水分を意識して、正常な唾液の分泌を維持しましょう。
唾液を増やすためには 些細なことで唾液の分泌量は減りますが、ちょっとした注意で量を増やすこともできます。以下のように日常生活の中でできる工夫を意識して行うことで、唾液の分泌を正常化させましょう。 ⦁ よく噛む(刺激で唾液の分泌を促す) ⦁ 水分補給(唾液に必要な水分を得る) ⦁ 口呼吸ではなく鼻呼吸を意識する(口内乾燥を防ぐ) ⦁ お酒やたばこを控える(刺激を減らす) ⦁ 唾液腺マッサージ(唾液の分泌を促す) ⦁ 唾液の質を上げる(口内の乳酸菌を増やす)
唾液には、口内の傷や歯の脱灰を修復したり、あらゆる病原菌の侵入・感染を防いだりする重要な役割を担うための、多くの成分が含まれています。健康な体作りを目指すには、唾液の分泌量も意識することが重要です。
歯科衛生士;新戸美佐子